場といふのは、最も舞台的にといふ意味にとれるからである。また不都合だといふのは、演出家には、それぞれ動かせない流儀があり、いろいろの戯曲をその流儀に当て嵌めて「書き直す」ことは、それが故意に行はれただけ、原作者に対して越権である。
ここで「書き直す」といふ言葉を使つたのは理由がある。翻訳者の多くは、原文を頭から完全無欠なものと心得てゐるであらうから、まあ問題はないのであるが、時たま、ある原文の一箇所が、どうも面白くない。寧ろ、かう云ひ直した方が面白いと思ふやうなことはないだらうか。勿論、それは、単なる文章の上のことでもいい。単語の位置を置き換へるぐらゐの違ひでもいい。さういふ場合、翻訳者は、それを原文のまま「あまり面白くなく」訳しておくか、又は原文に少しの訂正を加へて、「より面白く」訳しておくか。
僕は、その何れがよいかまだ決し兼ねてゐる。恐らく、訂正を加へない方がよいだらう。これが却つて原作者への礼儀かもしれない。なんとなれば、殊に戯曲に於ては、作者が故意に「へたな」エキスプレスションを用ふることがあるであらうし、又、さうでなくても、一語一語の効果は、それが肉声化される場合を顧慮
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