、あつしの知つてるんぢや、夜店へどしどし品物を出してますぜ」
この話は別に大した寓意を含んでゐるわけではない。近頃云はれる「職域」なるものの分類について、さう簡単にはいかぬといふ一例にすぎない。
単刀直入
日本人の最も好みに通つた物の言ひ方に、「単刀直入」といふのがある。
「言あげせぬ」といふことが、若し、「議論をせぬ」といふ意味なら、さういふところからも来てゐるのだらう。とにかく、ずばりと物を言ひ、いきなり急所要点をついて、相手に有無を云はせぬ筆法である。もちろん「武道」の呼吸にならつたものと云へよう。
実際、言論の士には、廻りくどい方も少くないが、単刀直入の使ひ手がなかなか多い。ほかのことはともかく、単刀直入だけは心得てゐるといふ風な人物もゐるのである。
うまくいけばこれほど痛快なことはなく、うまくいかなくても、相手に罪を着せることは容易であり、少くとも、こつちはもともとであるやうに思へる。
大体、人と言葉を交すことを、日本では戦闘競技に喩へる風習があつて、短兵急とか、一本参らすとか、止めを刺すとか、揚足を取るとか云ふ。尚武の国であつてみれば、それは当然で
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