が防空部隊の活躍はどんなものであらう。敵味方の空軍入乱れての戦闘は、音響的に、生彩ある幻象《イメージ》を作ることがこれまた相当困難であらう。せめて、地上部隊、即ち、高射砲、高射機関銃の実弾射撃でも観て置いたらと思ひ、この方は、放送局を通じ、警備司令部石本参謀の斡旋で、千葉海岸飯岡における、砲兵学校高射砲隊の演習を観せてもらふことができた。普通、大砲の音といへば、「ドーン」にきまつてゐると誰でも思つてゐようが、なかなかそんな単純なもんぢやない。少くとも傍で聴いてゐると、なるほど、これでなけれやならんといふ感じの音である。重量と圧力と速度の混り合つた一種生々しい金属音である。しかも、この発射に伴ふ瞬間の爆音が、弾丸の空気を裂く凄壮な擦音につながり、更に一団の白煙を残して目標真近にさく[#「さく」に傍点]裂する明朗快活な爆音に終る三段の経過は、砲戦描写に欠くべからざる手法だと気がついた。
          ○
 殊に、当日僕が識りたいと思つたのは、照空隊と砲隊との連絡、その間に使用される命令、報告、号令の用語だつた。「目標、東方上空の爆音、航速四十、運転始め、照射用意。第一分隊聴音よし。統
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