といへるのである。
舞台監督の所謂「演出」(〔mise en sce`ne〕)なるものが、「演劇美」の如何なる領域に、その統制力を発揮し得るかといふと、主として視官に愬へる舞台の造形的イメエジに於て、戯曲の指定せざるエフェクトの適用と、俳優自身の意識外に拡大するイメエジの規整とを考慮しつつ、戯曲の「リズム」――即ち、「心理的流れ」に、最も適切な全体的|色調《トオン》と、必要な傍線(アンダアライン)を加へることである。
舞台監督の第一の役割は、俳優と同じく、「戯曲」の精神並に「リズム」を正確に捉へるといふことであるが、それから以後の任務は、原則として、俳優の領域を冒すことなく、俳優の演技を極度に且つ隙間なく戯曲の立体化に役立たしめる「非人称的」コンダクタアたることで尽きるのである。
しかしながら、偶々、戯曲の性質に応じて、演出といふ仕事が、演劇の、より以上広大な領域を占める場合もないではない。それは主として、戯曲中の人物が、それぞれ一個の生命をもつて生活してゐるといふよりも、各人物の多少機械的な動きとの対立から、場面場面の生命感を作り出してゐる、乃至は、作り出さねばならぬやうな戯曲
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