到達したのである。
 これこそ、近代劇運動の総決算的収穫であり、現代演劇の受け継いだ最も貴重な遺産であらうと思ふ。

     四 近代劇の遺産

 前項、「近代劇の諸相」は、即ち、「現代の演劇」及び「現代戯曲の諸傾向」中にその脈絡を存してゐるものである。その意味で、本講座に於ける山田肇、山本修二、舟木重信、岩田豊雄、原久一郎諸氏の行き届いた研究を参照して欲しいと思ふが、凡そ芸術上の端睨すべからざる主義主張と、一見前人未踏の境地に分け入つたと思はれる個人的実績との夥しい錯綜のなかに、確乎たる歴史的意義を見出すことは、相当の時代を隔てない限り容易ならざることであり、今仮に「現代の演劇」を通じて、誰々の事業、誰々の作品が、既成観念の上から、「近代劇」の正統に位ゐするものであるといふ認定を下すとしても、それは最早、演劇としての価値批判にはならないのである。
 この見地から、私は、所謂「近代劇の亡霊」を封じ、真の劇的伝統に眼を注ぐことを以て、この小論の目的としたいのである。それ故、「近代劇の遺産」として、演劇の本質探究に関する当面の問題を捉へることが、最後に残された仕事であると思ふ。

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