ュの三人によつて占められるといふのであるが、これは先づ何人も異議のないところであらう。彼は自然主義的苛烈さを有すると同時に、所謂「心理的詩味」の開拓者であり、その点で、既に純写実劇よりの離脱を示してゐる。その傑作の一つ「ふかなさけ」(Amoureuse)は、一八九四年の発表であるが、それから二十年を経て、同じく「過去」(〔Le Passe'〕)「昔の男」(Le Vieil Homme)の諸作と共にその影響が新しい時代の上に目立ちはじめたのである。
 次に、フランソワ・ド・キュレル(〔Franc,ois de Curel〕, 1854−)は、一方ポルト・リシュが恋愛心理を追ひ廻してゐる間に、思索と瞑想の淵を逍遥して、北方の巨星、ヘンリック・イプセンの呼吸に耳を傾けた。彼も亦、時代の苦悶を苦悶し、生命の不安と闘つた。が、イプセンが飽くまでも北方的であるのに反し、キュレルは、兎も角南方的である。ラインに近いヴォオジュの森が彼の魂を育てたとはいふものの、その哲学は明朗若葉の如く、彼の描く人間の獣性なるものは、屡々微笑ましい姿を以て舞台に踊るのである。出世作「新しき信仰」(La Foi Nouv
前へ 次へ
全56ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング