_様は、コルネイユとモリエエルとボオマルシェの天才を一人で背負つてゐる」と。
 が、シェイクスピヤから、最も好い影響を受けた浪漫派の劇作家はヴィニイ(Alfred de Vigny, 1797−1863)と、ミュッセ(A. de Musset, 1810−57)である。
 この二人は、ユゴオの如く喬木の感じこそしないが、その劇作家的才能に於ては、遥かに緻密豊富であり、その異常な感受性は、単にシェイクスピヤばかりでなく、バイロンからも、ゲエテからも、同様に、享け容れるものを享け容れ、ヴィニイは、「チャッタアトン」「アントニイ」の如き、粉飾を去つた世紀的苦悶の劇を書き、殊に、ミュッセは、柔軟繊細な近代的感覚を以て、ラシイヌの古典美とシェイクスピヤの野生美とを、併せてその作品の上に盛り、嫋々たる微風に沈痛な面を晒すが如き、正にユニックな喜劇を物したのである。
 ミュッセは、その処女作、「ヴェネチヤの夜」が舞台的失敗に終つた結果、その後、上演を断念して、自ら「書斎で観る芝居」なるものを書き続けたが、これが、作者の死後、今日に至つて、観客の心を酔はす比類なき近代古典の中に数へられてゐるのである。

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