門的な部門では、立派な仕事をしてゐるが、一度この人間の生活――普通私生活といつてゐる部分、さうして、その私生活に寧ろその人間の全貌が実際現れるわけなのだが――を観るとその人の公の生活の中に十分発揮されてゐる人間的価値と幾分違つた形で、いはゆる非文化的な状態でそれが現れてゐるやうなことも度々あるのではないか。今後は人間の価値標準などももう少し実質的に見なければいけない。どうも今までは、仕事を生活の他の面から孤立さして秤にかけるといふところがあつたやうです。これなども、今後の文化を考へる場合、改めねばならぬことゝ思ひます。今日、職域奉公といふことが非常にやかましく云はれますが、作家は、作品を書くことが奉公でなければならん。さうするとすぐ作品そのものに何か奉公といふ精神がなければいけないといふやうに、ものゝ考へ方が狭くなつて行くやうな傾向が現在あることは、非常に危険だと思ふんです。人の仕事といふものは人の生活から出てゐるんだ。その人の人格全体、その人の生活全体が、現在の時代に役に立つて行けばそれでいゝので、逆にだんだん人間と社会の接触する面を狭めて行くやうなものゝ見方が、また起りかゝつてゐる
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