治的の力を形づくる要素といふものも、今までのものより、ずつと広く大きくなつて行くだらう。さういふ意味から云へば、現在のところ、今までに政治力のなかに入らなかつたやうな民衆のいろいろな要素が、それに加つて行く道が、寧ろこれから拓けるんぢやないですか。この機会に、それがなるべく沢山はひつて欲しいと思ふのです。翼賛会がさういふことに役に立てばそれだけでもいゝと思ふんです。今翼賛会の一番大きな本当の仕事は何かといふと、官制の改革と議会の改革で、これが誰の力でもできない。役人と代議士では官制の改革も、議会の改革もできないから、第三のものが出来て来たのが、この翼賛会だと思つてゐる。それなら、これは今までの政治力の上に、さらになんらかの力を加へなければいけない。それを、革命といふ形でなくて変へようといふ、日本的の含みのある一つの運動だと僕は解釈してゐる。随つてこれは、公明正大なる心で、政治に対して一番よく発言のできる時代になつたとも云へませう。これが或る時期を過ぎて、また固定すれば、いろいろな弊害が出来るかも知れないが、今は少くともさういふ時期で、知識層がこゝで起ち上つて、日本の今までの政治のなかに足りなかつたものを、ドン/\入れるやうに努めなければいかんと思ふ。さういふことの役割が、翼賛会のなかの文化部で果し得られゝばいゝ。また文化部だけでなく生活指導部、青年部なども、さういふ役割を十分果し得るのぢやないか。そこにゐるメムバーを見ても、いろいろな意味で、少くとも今までの官僚とか政治家といふ人たちよりも新しい考へをもつてゐる人があり、或は官吏のなかの新しい考へをもつてゐる人が、今まで実際に考へてゐても現実の政策の面に十分生かし得なかつたやうなところも、さういふ力がそれに加はることによつて、何かしら別に、今までと違つた結果が現れる可能性がいくらか多くなつたのぢやないかと思ふのです。
とにかく、こゝでどうにかなるだらうと、手を拱いてゐたら、一層悪くなるばかりなのです。
「職域」について
職域奉公といふ言葉を玩んではいかんと思ふ。或る仕事によつては、その仕事自体が国家のためといふ看板がかゝつてゐて、さういふ人々は遊んでゐて、煙草をふかしてゐても、国家のためになつてゐるつもり――少くともそんな顔ができる。さうでなくて、その仕事をどう考へて見ても直接に国家のためとは云ひ切れないやうな仕事がある。それを料理に例へてみると、国家のためには魚のこゝをかう切つた方がよからうと云つても、これはをかしなことだ。料理人としての時局認識から云つても、魚の尾を捨てる代りに豚の餌にしようといふくらゐが関の山だが、僕はさうぢやなくて、国民が今日国家のために役立つといふことは、もつと全人格の上に立つて考へなくちやならんと思ふ。一体自分は新体制であると個人的に云ひ切れる人は、実は本当に自分を見てゐるかどうか、もう一度考へ直して欲しいと思ふ。今日に至つて、このまゝではいけない、なんとか自分を鍛へ直さねばならぬといふ気持でゐるといふことをお互に知つて、もつと温く、お互に接し合はなければいかん。本当に必要なことは、個人がどう変るかといふことであるけれども、しかしそのためにお互に有無相通ずるといふ便宜な組織を作つて、さうして力の弱い国民が同じ国民としての働きができるやうに、引つ張つて行くことが肝要なのだ。
一体これほどいゝと分りきつたこと、或はやればいゝと分りきつたことがどうして今まで行はれないか。それは要するに、今までの政治家とか或は官公吏とかの責任のあり場所が曖昧なことによるのでせう。つまり或る人がそれをやらうとすれば、おつとそれはこつちがやるんだ。君のところでやつてくれと云へば、それは俺のところでやるんでないと、責任をとるんでもなく、与へるんでもない。これが到る処にある。これを一掃しなければ到底駄目だと思ひます。それで役人がやらないから民間でやらうとすれば、おつと待て、勝手にしてはいかんと云ふ。それでは役所でやるかといふと、こつちではしないと云ふ。どこでも問題が同じで、必要なものをあつちに転がし、こつちに転がし、宙に浮いてゐるといふ有様だ。
知識層のこと。僕はやはり文化部が知識層を動員し、知識層が動くことによつて、国民がついて行くといふ実績が示されねばいかんと思ふ。例へば地方娯楽にしても、知識層が地方の自主的なよいものを活かして行くのが本当で、自分の手で作り出させなければ結果はいけない。キャラメルを避難民にやるやうに、映画を農村にもつて行つて見せてやるといふ観念がいけないと思ふ。さうしてそれを見て村の人が喜んだ、感激したといふことで、その印象を何か誇らしげに語る人たちは、よほど注意して欲しい。どうして偶々もつて行くこんな映画に、彼等が飛びついて驚喜するかを
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