きも覚えたんでございますが……なにしろ、時節が時節、周囲が周囲でございますから、異人さんと云へば、そこに使はれてゐるものまで羽振りがいゝといふわけで、わたくしの両親も、つい、一人娘のわたくしを、奉公にまで出す気になりましたんです。それを、どうしたものか、わたくしがいやがりまして……。なるほど、たまには、さういふ娘たちのうちで、よくない噂を立てられたりしたものもゐましたせゐでせうが、母など、口を酸くして勧めますものを、たゞ、いやいやで四五年を過してしまひました。
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それが、ふとしたことから、急に気が折れまして……と申しますのは、その頃、姉妹《きやうだい》のやうにいたしてをりました、近所の、おはつさんといふ娘《こ》が、わたくしに相談もせず、何処かの男と駈落をしてしまつたんでございます。まあ、そんなことから、家にゐてもつまらなくなりまして、幸ひ、たつてといふお話もあり、本牧の、ジョオジ・クレプトンさんとおつしやる、銀行家の御家庭へ上る決心をいたしましたんです。お子様が、十三を頭に、お三方いらつしやいました。旦那様は、今の言葉で申上げますと、立派な紳士、奥様は、貴族出のお
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