で。
女 さうおつしやると、なほ帰れないわ。さつき、二人でゐる時ホテルへかゝつて来た電話ね、あれは、学校のお友達でも、その旦那さんでもないのよ。
男甲 知つてるよ、そんなことぐらゐ……。
女 さうでせう。あたし、今、その人のところへ来てるの。あなたに隠れてよ。でも、あたし、後悔してるの。取返しのつかないことをしたと思つてるの。
男甲 取返しはつくさ、なんでもないよ。
女 だから、あたし、あなたに済まないと思つて、決心したの。
男甲 ふうん、どんな決心……。
女 今、すぐわかるわ。(女はテーブルの上の拳銃を取り上げる)
男乙 (慌てゝ女の手を抑へ)よしてくれよ、それだけは……。弾丸《たま》がはひつてるんだぜ。
女 嘘よ、そんなこと……。(銃先を喉に当てる)
男乙 (もぎ取らうとして)空砲だつて、怪我をするよ。
女 (さう云はれて、今度は、急に銃先を男の方に向け、放す。爆音)
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男乙は、そのまゝ、前にのめる。
女、驚いて、駈け寄る。
[#ここで字下げ終わり]
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男甲 よし、よし、それで
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