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男甲  では、かうしよう。わしが先へ行つて、後から迎ひを寄越すから、お前は、用意が出来たら、すぐ来るといゝ。お客さんだから、そんなにおめかしをして来なくつてもいゝよ。
女   あたし、そんなとこへ行かなくつてよ。
男甲  どうして……。
女   どうしてゞも……。
男甲  困るなあ、今更、そんなことを云ひ出しちや……。
女   困らないでせう。その方がいゝつて、ちやんとおつしやいよ。
男甲  もう約束しちまつたんだぜ。
女   だから、あなた一人で、行つてらつしやればいゝわ。
男甲  淋しくないかい。
女   淋しいわよ。
男甲  それ見ろ。
女   でも、いゝわ。淋しいぐらゐ我慢するわ。その代り、十二時までには帰つて頂戴ね。あたし、寝てるから、そうつと扉《ドア》を開けるのよ。さ、行つてらつしやい。
男甲  いやに聞き分けがいゝね。ぢや、ちよつと行つて来るよ。さうさう、お友達が来るかも知れないんだね。さうだと、却つて、わしがをらん方がよからう。

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男甲、帽子を取つて出て行く。
男乙、書物を投げ出し、寝台にもぐり込む。スタンドの灯を細くする。
Cの電
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