げ]
男甲 京都では、まだお前に見せるものがあつたつけな。
女 なあに?
男甲 舞妓さ。
女 そんなもんどうだつていゝわ。
男甲 まあ、後学のために見ておけ。まだ睡くなけれや、今から出かけるか。こうつと……。何処がいゝかな。どれ、ひとつ、ナンバア・ワンつていふところをお目にかけよう。(電話の方に近づく。受話器を取り上げ)もしもし京極一六二九番……。
[#ここから5字下げ]
Cの電話室の呼鈴が鳴る。丁稚風の少年が現れる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
少年 あ、もし、もし……。
男甲 あ、もし、もし……。わしだよ。東京の楠見だよ。
少年 楠見はん、そんな人、知れへん。
男甲 君は、誰……。
少年 わてか。わて、米吉いふもんどす。
男甲 あゝ、米竜か。わしだよ。はゝゝゝ、わかつたか。うん、しばらく……。どうだね、その後は……。いや、なに大したこともないさ。実は今度は、家内を連れて、見物かたがたやつて来たんだがね。どうも見物も疲れるばかりでね。はゝゝゝ、さうはいかんさ。そいつは、一人で来た時にしよう。うん、さういふわけで
前へ
次へ
全21ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング