…。
貢 さう云へば、あの時代に、先生と西原とうちで会つてやしないかしら……紹介はしなかつたかもしれないが……。
牧子 あつたにしても、両方とも、忘れてるでせう。だけど、西原さんも、特徴のある顔だし……。そんなことを、もう語し合つてるかもしれませんわね。
貢 無論、そんな話は、とつくにしてしまつてるさ。ああ、あん時、あそこにゐたのがあなただつたんですか、なんて、やつたにきまつてるさ。
牧子 ぢや、西原さんていふ方は、大学へいらしつてから、おとなしくおなりになつたのね。
貢 おとなしくつて……そんなにおとなしいか。
牧子 でも、お酒はあがらず、乱暴な口の利き方なんぞ、なさらなかつたでせう、ほかの方みたいに……。神谷さんなんか、出鱈目だつたぢやありませんか。
貢 神谷の方が馬鹿だよ、それや……。西原は、さうだね、大学へ来てから、急にすましだしたね。眼鏡を拭きながら話をすることなんか覚えてね。
牧子 それはさうと……。
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沈黙。
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貢 なに?
牧子 いいえ、なんでも……。
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