にしなくちやいけないよ。さうなれば占めたものさ。お前は、まだ若い。いや、若いんだよ。あの人を見ろ、より江さんを……。お前と同い年だらう。あれが、つまり、周囲の空気を感じてゐる証拠だ。お前も、あの通りになれ。――笑ふ奴があるか。
牧子 男つて呑気なものですわね。いくつになつても空想があつて……そして、その空想に相応した興奮があつて……。
貢 何を云ふか。おれは、今日、自分でも少しはしやぎ[#「はしやぎ」に傍点]すぎるなと思つてゐる。だからつて、別に、さういふ気持を抑へる必要はないぢやないか。これはほんの譬へだがね、今、より江さんがおれの細君になり、西原がだよ、お前の旦那さんになつてくれてさ、さういふ二組の新しい生活が始まるとしたら、お互に、よろこんでもいいぢやないか。それは、あり得ないことかも知れない。しかし、一昨日よりは、あり得べきことだらう。さういふ今日に廻り会つたことだけでも幸福ぢやないか。希望は逃げて行くもんだ。しかし、希望が一つ時でも、こつちを向いて笑つてくれれば、こつちも、大いに笑つてやればいいぢやないか。
牧子 そんな理窟は成り立つかどうか知りませんけれど、兄さまの、
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