あたくしも、また、それをいいことにして、自分勝手なことばかりしてゐるんです。けれど……ですから、かういふ時、困りますの。でも、留守にすることなんか、滅多にないんですものね。さうですわ、ここへ引込んでから、今日が初めてぐらゐですわ、東京へなんぞ出ましたのは……。
より江  もう、おからだの方は、すつかりおよろしいんですの。
牧子  だらうと思ふんですけれど……その後、風邪一つ引きませんし……。あの顔色ですもの、大丈夫でせう。
より江  ほんとに、長らくお患ひになつたなんて思へませんわ。でも、まあ、あなたが、よく……。
牧子  ええ、これも、仕方がありません。――なんていふと、えらく悟つたやうですけれど、あたくしたちは、御承知の通り、珍らしく身よりつていふものがないんですからね。物心のつく頃から、兄一人妹一人で、育つて来てるんですから、かうして一生、お互の世話になつて暮すなんていふことが、それほど不自然には思へないんですの。(間)それや、兄さへその気になつてくれれば、兄の世話は、「その人」に委せて、あたくしは、外へ出るなりなんなり出来ないこともありませんけれど――その為に、一通り覚えること
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