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三輪の妻と並木の妻とが連れ立つて帰つて来る。
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三輪の妻 随分かゝつたでせう。気に入つた柄がないの。奥さまにも見て頂いたんだけれど……まるで好みが違ふの。
並木 こいつは悪趣味ですからね。
三輪の妻 いゝえ、さうぢやございませんの。そら、(夫の方をちらと見て)あたしは、どつちかつて云へば、粋好みでせう、自分で云ふのは可笑しいけれど――それに、奥さまは、お上品なお好みでいらつしやるから……。
並木の妻 あら、あたくし、そんな、お上品なんて……。
三輪 いや、どうもさうらしい。それで、やめたのかい。
三輪の妻 兎に角、きめたんですけれどね、あなたのお気に召すかどうか……。一度見て下さるといゝんだけれど……。いゝのよ。わるかつたら、また取り換へるわ、うちで見て……ね。それより、御一緒に、一重帯を見たのよ。こちらの奥さまが御覧になりたいつておつしやつたから……。よくお似合になるのがあつたの。(並木の妻に向ひ)あれをどうしておきめにならなかつたんですの。
三輪 お前みたいに、独りでおきめにならないん
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