が、それぢや、なほ、僕がつらい。余計なことを云つてしまつて、どうも、納まりがつかなくなつたが、それだけは赦してくれ。今日は全く失敗した。近頃こんなに苦しい思ひをしたことはないよ。人間は惰力で活きてゐるものだとは思つてゐたのだが、反抗反抗で活きてゐる人間が、ぱつたり手応へのない処へぶつかると、かうまで間誤《まご》つくものとは知らなかつた。さつきから話したことも、あれや、つまり、僕の反抗心が云はせた嘘八百だ。そんなことにも、気がつかない君ぢやあるまいが、あんな大鉢《おほばち》を叩いて置いて、そのまゝ別れたんでは寝醒めが悪いからなあ。
三輪  まあ、さう、自分だけを責めなくつてもいゝさ。人一倍自尊心の強さうな君に、金を貸せと云はせた僕にも、いくらか徳があるんだ、ねえ、さう自惚れさせてくれよ。奴さんたちが帰つて来るまでに、その話をきめとかうぢやないか。
並木  いや、それだけは断る。今日は断る。これも取つて置いてくれ。なにもかも、やり直しだ。五年後にもう一度会ひ直さう。少しは人間ができてるかも知れん。
三輪  相変らず強情だなあ。それなら気のすむやうにしたまへ。(金を受け取る)

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