だよ。
三輪の妻  あら、だつて……。
三輪  どら、出掛けよう。君達は、もう用はないんだらう。それぢやと……(妻に)何処がいゝかね。
並木  あ、僕達は、ちよつと寄るところがあるから、今日は失礼しよう。(三輪の妻に)折角ですが、此のつぎに……。
三輪の妻  まあ、そんなことおつしやらずに……。およろしいんでせう、奥さま……。
並木  今、思ひ出したんだ。弱つたなあ……。ほんとに、今日は許して下さい。
三輪  それぢや無理にお引止めしない方がいゝ。何れそのうち……。
並木の妻  (黙つて会釈する)
三輪の妻  でも、残念ですこと……。それではむさくるしいところですけれど、近々に是非……。あの、御一緒にですよ。
三輪  さよなら。

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三輪夫婦去る。
[#ここで字下げ終わり]

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並木の妻  どうなすつたの……。
並木  どうもしやしないよ。襦袢の袖、あつたの。
並木の妻  それや、あるわ。でも、困つたのよ、安いのを買はうとすると、傍《そば》から、三輪さんの奥さんが、こつちがいゝつて、高いのを撰《よ》るんですもの……。

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