そんなに大きな声を出すな。
三輪  大きな声を出すさ。君には、おれの心の声が聞えないぢやないか。
並木  聞えたよ。
三輪  何が聞えた。ぢや、今日、おれたちと一緒に、夕飯を食ふか。
並木  食ふよ。(涙を溜めてゐる)

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長い沈黙。
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三輪  金持は罪人だといふ君の主張は、今でも変るまいが、まさか、昔の友達を敵《かたき》扱ひにするほど、突きつめた考へ方をするやうになつてるんぢやあるまい。(間)それに、おれなんか、金持の部類にはいらないよ。

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長い沈黙。
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三輪  どうしたい、そんなに悄気《しよげ》ちや、駄目だよ。
並木  悄気てやしないよ。
三輪  悄気てもゐまいが、元気がないぢやないか。さうさう、からだの方は、大丈夫なのか。
並木  あゝ、その方は……。
三輪  それや、いゝね。その点ぢや、おれの方が惨《みぢ》めだ。相変らず寝てばかりゐるよ。
並木  神経痛か。
三輪  それと、例の……。
並木
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