うれしいが、そんな余計な威張り方はして貰ひたくないね。
並木  威張るんぢやない。
三輪  威張るんでなけりや、なんだい。勿論、卑下をしてゐるんぢやあるまい。僕はね、並木君……。
並木  ……君《くん》はよさうぢやないか。
三輪  ……。
並木  並木と呼んでくれ、昔通り……。
三輪  いやにこだはるなあ。ぢや、ねえ、並木、おれは久し振りで君に会つて、こんなことを云ふのはいやだが、君は、自分でも云つてる通り、すつかり人間が変つてるぞ。変つてるのはかまはないが、なんだつて、さう、おれに、見栄を張らなけれやならないんだ。貧乏を恥かしがる必要もないが、貧乏を吹聴して、独りで力み返る必要がどこにある。貧乏を自慢にすることは、近頃流行するやうだが、黙つてゐても、貧乏なことぐらゐはわかるよ。
並木  (対手の顔を見上げる。眼が異様に光る)
三輪  侮辱されたと思ふのか。おれは他人を侮辱して愉快になる程、まだ快楽に渇《かつ》ゑてはゐないよ。云ふことがあるなら云つて見ろ。自然に遠ざかつて行つたのには、何か理由もあるだらうが、おれの方は、少くとも、最後まで、変らない友情を示したつもりだ。
並木  おい、
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