あゝ……。まだいけないのか。
三輪  益※[#二の字点、1−2−22]いけないよ。
並木  そんな風には見えないぜ。
三輪  それがいけないんだ。

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間。
[#ここで字下げ終わり]

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並木  降りようか。
三輪  入れ違ひになると厄介だから、もう少し待たう。腰かけるか。(腰かけを探す)
並木  ねえ、君、久し振りで会つて、こんなこと頼むのは厚顔《あつかま》しいやうだが、都合がよかつたら二十円ばかり貸してくれないか。
三輪  (一寸気まづげに相手の顔を見るが、すぐに懐に手をやつて)あゝ、いゝとも。それくらゐならあるよ。(紙入れを出して、紙幣を抜き出し、並木に渡す)
並木  ありがたう。(そのまゝ袂にしまふ)

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重苦しい沈黙。
[#ここで字下げ終わり]

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三輪  風が無くなつたね。
並木  気を悪くしやしないかい。
三輪  君こそ、そんなことを苦にしてるんぢやないか。僕は今日君に会つたことをよろこんでゐるんだ。お互に昔通りものが言へるのはうれしいよ
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