A又は感覚的に、物語の進展を印象づける。扮装及び装置は、絶対に必要とは云ひ難い。何者かに扮してゐるといふこと、即ち、「俳優」であるといふことがわかれば、それで十分な場合もある。装置も同様である。場所の暗示さへできてゐればよく、時によると舞台上の人物をして「此処は何処である」といふ説明をさせてそれですます方法さへある。
 それならば、演劇とは「物真似」にすぎぬかといふ疑問が起りさうであるが、「物真似」は勿論、演劇の原始形態ではあつても、決して、芸術ではない。前に述べたとほり、「生活の発展」から、ある種の「美」、しかも、創造的なものが生れなければ、如何なる意味に於ても芸術とは云ひ難い。そこで、演劇が、「物語」、すなはち、文学の「方法」と提携する。しかも、純然たる「叙事」と「抒情」の範囲から脱した、一種独特な「物語形式」を要求することになる。「戯曲」の「制約」は、即ちここから生れて来なければならぬ。
[#ここから1字下げ、折り返して3字下げ]
一、時間の経過に従つて物語が進められる。時間を経過させる速度の調節はできるが、後に起つたことをさきに現はすことはできぬ。
一、時間の経過を止める方法は
前へ 次へ
全21ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング