よれば、そのプログラムも一応できあがつてゐるやうである。われわれはその内容について直接当局からはなにも聞いてゐないけれど、各項目をざつとみたところでは、別に驚くやうなことはひとつもない。
 たゞ最後に自分の眼を疑ひたいほど会心な一項目が掲げられてゐるので、それだけでも、政府の意図するところを私は汲むことができた。その項目といふのは、国立演劇研究所の創設である。
 かねて私は機会ある毎に、かゝる国家的施設の必要を叫んでゐたのである。わが国の演劇界の現状は、誰がなんといはうと、正しい意味でのアカデミズムの欠如が唯一の弱点であつた。技術の訓練も、人材の吸引も、品位の向上も、理論はとにかく、実際問題として、まづそこから出発しなければならぬのが、少くとも日本的特殊事情なのである。
 演劇そのものに対する社会的偏見の是正は、国家がその権威と責任とをもつてこれに当る以外、もはや近道はないと私は信じる。
 さて、然らば、どんな演劇研究所ができるか? 恐らく急速にといふわけにはいくまい。技術の新しいメソードの樹立といふ見地からでも、いくらかの準備期間が必要かも知れぬ。形式にとらはれて、無きに如かざるやう
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