代劇運動を全然、此の二つの範疇《カテゴリイ》に入れてしまふことは不可能といふことになる。
 そこで、これから、兎も角も、此の二つの相反した傾向を、いろいろの立場から比較吟味して見ることにします。

 小劇場主義とは、前にも述べた通り、芸術的演劇は「小さな劇場」に於てのみ存在し得るといふ主張である以上、経済的その他の理由と関係なく、舞台並びに観客席の広さについて、芸術的効果を標準とする、一定の理想がなければならない。これは勿論、数字を以て示すほど窮屈なものではないのでありますが、結局は、所謂「室内劇」の精神に到達すべきものであります。

 広い意味に於ける「室内劇」は、決して、近代の所産ではありません。これが近代劇一面の傾向と結びついて、今日では、演劇の芸術的貴族主義を代表する一運動となつた。
 仏蘭西では、ララ夫人の組織する『芸術と活動』社は、正に「室内劇」を以て、演劇の純芸術的形式とするものゝ一つであります。(ララ夫人並びに同人の多くは、政治的には左傾思想の支持者であることも注意すべきである)
「室内劇」の精神とも云ふべきものは、所謂、芸術的貴族主義の思想にその根柢を置いてゐることは
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