スは、金のかゝらない舞台を利用して、兎も角も一生懸命に芝居をやつてゐる半素人劇団の、健気な努力に向つて附けた名なのであります。大きな劇場を借りても、そんなに見物が来ないのはわかつてゐる。舞台が広ければ装置にそれだけ金もかゝる、まあ、今のうちはこれで我慢しなくては、かう思つて「小劇場」を選んでゐた。見物の方では、広い見物席にばらばらツとばら撒かれて、しよんぼりと動きの無い舞台を見せられてゐるよりも、かうした芝居を見るからには、小ぢんまりした見物席に、数は少くても相当の密度で、どつちを向いても知つた顔といふ気持に、落ちつきと親しみを感じながら、動きはなくてもしみじみとした舞台の味を、心行くまで噛みしめるといふ満足に浸りたい。これが、「〔The'a^tre Intime〕」の名の起りであります。この「テアトル・アンチイム」を、すぐに「小劇場」と訳しては語弊があります。寧ろ「家族的劇場」である。しかし「家族的」と云ふのは、必ずしも劇場内の空気に親密さを感じるといふ意味ばかりでなく、舞台そのものから「近い」といふ感じが大いにあります。自然主義的舞台の信条である「第四壁論」から云へば、見物席と舞台と
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