タ的演劇の樹立以外に、舞台から芸術的に不純なものを駆逐することに努力した。その功績は第一にこれを認めなければなりません。
 例へば、或る人物に扮した俳優が、その役の如何に拘はらず、なるべく「目立たう」とする習慣の如き、それがために見物に背を向けてゐなければならない場合にでも、わざわざ見物の方を向いて物を言つたりする因襲の如き、これは浪漫的演出の余弊であります。
 写実的演出に於ては、かういふ「わざとらしさ」を全然排斥した。人生の真相、生活のありのまゝの姿を舞台に描き出すことが目的であるところから、少しでも「芝居をする」ことは許されない。舞台にゐる――見物に見られてゐるといふ頭があつてはならない。舞台と見物席との間には、やはり壁があるものと思つてゐなければならない。これが写実的演出の信条たる第四壁論であります。
 端役も無言役も、「生活の断片」たる舞台の上では、その生きてゐる点に於て、一つの役割を有つてゐる点に於て、即ち、その生活の一部を成してゐる点に於て、少しも変りはない。一人でも芝居をするものがあつてはならないと同時に、一人でも舞台を呼吸してゐないものがあつてはならない。こゝから舞台
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