ェ指摘、排斥したからであります。今日から見れば、浪漫主義的戯曲に古今の名作逸品があると同様に、浪漫主義的演出必ずしも卑俗な演劇ではなく、却つて、低級な悪写実の趣味を凌駕して、芸術的演劇の重要な一部門を成す観があるのであります。
 浪漫主義の芸術が近代芸術に与へた最も貴重な要素は、云ふまでもなく「幻想の遊戯」であります。而も、これを排斥したところに、極端な写実主義者――自然主義者の弱点が潜んでゐたのであります。
 写実主義的演出――更に自然主義的演出の特長は、全然浪漫主義的演出への反動と見て差支へない。
 そこから、所謂「舞台は生活の断片なり」といふ議論に基く戯曲が生れ、所謂「第四壁論」が演出の根本主義となるのであります。
 この舞台上の革命は、恐らく、演劇の芸術的誕生とも見るべきもので、先に云つた浪漫主義的演劇の真価も、此の反動的運動なしには、遂に芸術的に純化されることはなかつたかも知れません。
 舞台上の写実主義――これは必ずしも、近代の産物ではない。然し、これが近代の文学的傾向と結びついて、始めて完全な表現に達した――アンリ・ベックなどの作品にヒントを与へられた自由劇場の運動は、写
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