関係者は、早くも国立劇場の建設を提唱してゐるが、これは、順序として少し待つて欲しい。中身のない国立劇場は可笑しいのである。能や歌舞伎を保護するといふ名目は、日本文化宣揚を口癖にする保守的愛国者の気に入るだけである。現代はなによりも国民の精神的怠惰と戦はねばならぬ。祖先の遺産に恋々たるよりも、民族の創造的努力を鼓舞することによつて、世界の知的水準を抜く野心こそ青年日本の意気でなければならぬ、国立劇場は古典劇場の別名ではない筈である。
 過剰な国粋主義こそは、新興芸術の敵なのである。この一点で、私は、国立劇場即時建設案の賛否を保留する。そして、この案の提唱者も恐らくは合流するであらうところの、国立(或は官公立)演劇映画専門学校の創設案を、先決的に考究せられんことを当局に希望する次第である。
 そして、私が、かゝる潜議な提議を、特に本紙を通じてなす所以は、本紙の読者諸氏を以て、最も有力かつ誠実なる支持者と見做す理由があるからである。



底本:「岸田國士全集23」岩波書店
   1990(平成2)年12月7日発行
底本の親本:「帝国大学新聞」
   1936(昭和11)年11月2日
初出:
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング