まれてゐる。
 共和国フランスに於ける演劇政策は、四、五の国立劇場に相当の補助金を交附し、劇場専属の俳優を官吏待遇とし、惜しみなく劇場関係者に勲章を与へ、元老女優で勲一等に叙せられたものも出るくらゐ徹底してゐるやうであるが、なにしろ、既にこの老成国は制度にのみ頼るところがあり、官立の演劇学校はその「伝統」――実は因襲の故に天才を育てることができなくなつてゐるし、投機的性質を帯びた商業劇場の如何はしい上演目録が民衆の人気を浚つても、それは手の施しやうがないのである。とにもかくにも、フランスの演劇政策は現在まで、フランスの政治的性格のもつ長所と弱点とに左右せられ、近代フランス劇の消長は、その演劇政策の如何に拘らず、まさに国民的自覚の大小に比例してゐると云つていい。
 ドイツ帝国にあつては、この点、フランスと甚だしく趣を異にしてゐる。ドイツの演劇政策は、フリドリッヒ大王以来、その一般国民的性格を反映して、極めて組織的であり、計画的であつた。元来ドイツ人はフランス人ほどに演劇的ではない。しかし、フランス人よりも演劇的訓練を受けてゐる。ドイツに於ては、演劇が早くから政治の面に結びつき、劇場の多く
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