五十円か。相当だな。
飛田 どうだい。やつぱり、おれが不断云ふ通りだ。
底野 うむ、これや成功だ。
飛田 降参したか。おれの主義をもう一度聴かしてやる。犬も歩けば……。
底野 え?
飛田 む?
底野 可笑しいな、少し。
飛田 なるほど、変だ。犬も寝て待てば……か。さうでもないな。
底野 (思ひつき)やあ、どうだい、こいつは、やつぱり、おれの勝ちだ。その金は、おれが手に入れたも同然だ。どら、貸してみろ。
飛田 (むきになり)待て。果報は寝て待て。お前は寝てたか。
底野 (ぐつとつまり)む?
飛田 かういふのは、どういふことになるんだ。金を得たのはたしかにおれだ。おれの運だ。
底野 しかし、その金を得させたのは、おれだ。おれの主義だ。貴様は、おれの方針を守つて寝てゐたんだ。
飛田 それぢや、犬は、歩かずに寝てゐても棒に当るんだ。万歳、万歳。
底野 果報は歩きながら待てだ。万歳。さあ、出掛けよう。
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両人、勢よく起ち上る。
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底本:「岸田國士全集5」岩波書店
1991(平成3)年1月9日発行
底本の親本:「浅間山」白水社
1932(昭和7)年4月20日発行
初出:「現代 第十三巻第三号」
1932(昭和7)年3月1日発行
※初出時の題名は「運を主義に委す男」。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:kompass
校正:門田裕志
2008年3月19日作成
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