一軒をお邪魔して歩きましたら、また、その宅次第ではお目に止るものがありはしまいか、なるほど、かういふものは買つておいて損はない、これは珍しいから誰それさんにも分けてあげよう……。
底野 もしもし、それでわかりましたがね、生憎、僕の家にゐる男が、やはり君のやうな思ひつきを、今実行してゐるんですよ。こいつが、大概のものを持つてますからね、わざわざほかから買ふ必要がないんだ。
男 お言葉でございますが、人それぞれの頭は、働き方が違ひまして……。
底野 ところが、そいつと来たら、言ふことが君と同じでしてね。頭の働きもよく似てるんだ。
男 はゝゝゝゝ御戯談でせう。わたくしは、元来、生ひ立ちから申しまして、多少人様と違つたところがございますし、決して、人様の真似や、人様から真似られるやうなことは……。
底野 それさ、君、その男といふのが、実にまた人と違つたとこがあつてね。
男 それはさうでございませう。ですが、甚だ勝手をお許し願へれば、ひとつ、そのお方のお持ちになる品と、わたくしの持参いたしました品とをお比べ下さいまし。恐らくどれひとつ同じものはございますまい。
底野 さあ、そんなら
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