おれや、出掛けるよ。巻煙草の長い喫ひさしでも拾や、損得なしだ。
飛田  おれは、今日は休むよ。家にゐるよ。
底野  人聞きのいゝことを云つてやがらあ。何処を休むんだい。家にゐたつて誰も心配しやしないよ。変な棒つ杭にぶつからないだけでも安全だ。

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かう云ひ捨てゝ、底野は表の方へ出て行く。
飛田は、昨日まで底野がやつてゐたやうに、座蒲団を二枚並べ、その上に寝ころがる。
やがて、彼は起き上る。どうも寝心地がよくないと見えて、いろいろ寝返りを打つてみる。また起き上る。部屋の中を歩きまはる。しかし、思ひ切つて、また寝ころんでみる。
この時、障子の間から、一羽の小鳥が部屋の中に飛び込んで来る。彼は、それを眼で追つてゐるが、やがて起ち上つて、一隅に追ひつめ、そつと両手で捕へる。
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飛田  これや、鶯だ。何処から飛んで来たんだらう。

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彼はさう云ひながら、勝手から目笊を持つて来て畳の上へふせる。
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飛田  鳴いて
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