ほかに変つたものは……?
男 これだけです。さあ、どつちでも……。(頻りに後ろを振り返り、不安な様子を見せる)いらないんですか。
底野 もう少し考へませう。
男 勝手にしやがれ。(さう捨白を残して、逃げるやうに立ち去る)
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底野、あつけに取られ、元の位置に帰り、ごろりと寝転がる。
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底野 勝手にしやがれ。云はれなくてもさうするより外はないが、あゝいふ人間を作つたのも、かういふ人間を生んだのも、これ、もともと人間の罪だ。征露丸を押売りするのも、それが買へないで、つまらんお喋舌をするのも、国を思ふ同胞の浅ましい姿だ。おや、何時の間にか飛田の調子が出て来やがつた。寝起きを倶《とも》にするつていふのは恐ろしいもんだ。
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この時、飛田が、洋服を泥だらけにして帰つて来る。
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飛田 やあ、今日は、ひどい目にあつたよ。
底野 どうしたんだい、その洋服の柄は?
飛田 危く貨物自動車に轢き殺されるところ
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