ほかに変つたものは……?
男  これだけです。さあ、どつちでも……。(頻りに後ろを振り返り、不安な様子を見せる)いらないんですか。
底野  もう少し考へませう。
男  勝手にしやがれ。(さう捨白を残して、逃げるやうに立ち去る)

[#ここから5字下げ]
底野、あつけに取られ、元の位置に帰り、ごろりと寝転がる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
底野  勝手にしやがれ。云はれなくてもさうするより外はないが、あゝいふ人間を作つたのも、かういふ人間を生んだのも、これ、もともと人間の罪だ。征露丸を押売りするのも、それが買へないで、つまらんお喋舌をするのも、国を思ふ同胞の浅ましい姿だ。おや、何時の間にか飛田の調子が出て来やがつた。寝起きを倶《とも》にするつていふのは恐ろしいもんだ。

[#ここから5字下げ]
この時、飛田が、洋服を泥だらけにして帰つて来る。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
飛田  やあ、今日は、ひどい目にあつたよ。
底野  どうしたんだい、その洋服の柄は?
飛田  危く貨物自動車に轢き殺されるところ
前へ 次へ
全32ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング