を残す記録であるかも知れない。しかもその記録は、現代に於て最も謙譲で伸びやかな青年の手によつて書かれ、その結果はおのづから人の涙を誘ふ一篇の美しく激しい物語になつたとみるべきであらう。
四
この二作は、どちらも、材料そのものに多くの感動的な要素が含まれてゐるにはゐる。しかし、その感動をかういふ風に純粋な形でわれわれに示し得る力は、偶然、この二人の作者が、人間としての美質に恵まれてゐたばかりでなく、「文学的な」素質を身につけながら、一方「文学者的な」表情や趣味、殊に、気どりと計画をまつたく無視してゐるところから来るのだと、私は解したのである。
それと同時に、やはり、今日の若い文学に、これらの作品がもつ素朴な情熱と初々しい驚きとを少しは注ぎ込んでいゝのではないかと思つた。
私一人が特にいまさういふものを求めてゐるのか、それについてはなほもうしばらく考へてみることにする。
最後に久々で私に快い興奮の一つ時を与へてくれた両作者に感謝し、何れも「戦ひ」のために傷いたからだを早く健康にもどされるやう、蔭ながら切に祈つて筆を擱く事にする。(「文学界」昭和十四年三月)
前へ
次へ
全14ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング