すこと必定だと信ずるが故に、嘲か私は歯に衣きせぬ物の云ひ方をした。不安と不信との内訌は百の論争より危険だからである。
六
以上の希望は、すべて、私が一国民としてこの祖国に大きな期待をかけてゐるところから生れたのである。日本人は、如何なる民族をも襲ふところのかの重大な危機を、幾度となく、危機と知らずして切り抜けて来た、云はゞ「無意識的に偉大な」民族なのである。われわれは、自分たちの力を、今こそ、最も積極的な目的のために統合し、日本を名実ともに正しい美しい国にするといふ理想の上にたつた、自覚と情熱とを互に持ち合はねばならぬ。
この文章はなにひとつ新しい説を掲げてはゐない。すべて心ある国民の胸裡に鬱積し、それを公に云ふことの無益なりとする考へが彼等をたゞ黙さしめてゐるのである。
私はさういふ考へをいさゝか疑ひはじめた。少くとも、腹ふくるゝが故にのみ、あへてこれを書きつらねたのではない。(昭和十五年九月)
底本:「岸田國士全集24」岩波書店
1991(平成3)年3月8日発行
底本の親本:「生活と文化」青山出版社
1941(昭和16)年12月20日発行
初出:「改造 第二十二巻第十六号」
1940(昭和15)年9月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年1月21日作成
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