一国民としての希望
岸田國士

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       一

 国民の一人一人が今日ほど政治といふものに関心をもつてゐる時代は未だ嘗てないだらうと思ふ。それはもう、被治者としての消極的な関心ではない。国民のすべては、自分たちのなかゝらこの祖国を立派に護り育てる有能な政治家が出ることを痛切に望んでゐるのである。
 しかし、何処にどういふ人物がゐるかといふことを国民の大部が知らずにゐたといふのは甚だ迂闊な次第であつた。私もご多分に漏れぬ組であるが、日頃、政治や政治家に興味をもたなかつた酬ひがこゝに現れたのであつて、今更致し方がない。新聞雑誌を通じての俄か仕込みの知識がどれほどあてになるか。新しい内閣ができると、新大臣は例外なく評判がいゝ。それがしばらくたつと、平々凡々といふことになる。しまひには、なぜそんな人物が国政の重任を負つたのか、国民は不思議に思ふのが常である。
 もちろん、一国の政治は大臣のみの自由になるわけではないから、大臣になつてど
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