れだけのことができるかは別問題としておくが、今日のやうな時局に、国民は所謂挙国内閣の顔ぶれに期待するところは非常に大きいのである。
 殊に、この度の近衛内閣は、新体制といふものゝ樹立がこれと結びついて、国民に固唾を呑ませてゐる。近衛公の人望は、幸ひにして、この異常な空気をさほど暗くないものとすることに成功してゐる。少くとも、日本の現状を憂ふるものにとつて、すべての改革は一応、希望の光りにてらされてゐると云つてよい。
 私は国民の一人として、この内閣を全幅的に信用しようと思ふ。
 安井内相の談話として、「正しいことを行ふのに張合のある制度を作る」といふ意味のことが新聞に発表されてゐたが、これも私は気に入つた。これは月並な宣言ではない。なかなかよく考へられた言葉である。今日かういふことを云ひ得るだけでも政治家として尊敬に値する。ほんたうにそれができれば、国民はどんなに感謝するかわからない。
 橋田文相は、科学振興について意見を述べてゐた。あれだけの内容なら別に新しい着眼でもないと思はれるが、橋田氏の思想の根柢はもつと深いものであらう。たゞ、私がこゝで一言この問題に触れたいと思ふのは、近頃科
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