学科学と方々でやかましく云ひだした、その動機が如何にも浅薄で外聞がわるい。云ふまでもなく、独逸軍の優勢を、科学の勝利とみることによるのであらうけれども、それはフランスの敗因が、芸術尊重の精神にありと考へるやうなものである。なるほど、独逸の科学兵器(この名称もをかしなものだが)は、英仏のそれよりも一歩進んでゐたことは事実として、また、赫々たる戦勝の主なる原因の一つをこれにおくのもよいとして、それは科学そのものが特に優れてゐたといふよりも寧ろ、「科学の軍事的利用」に於て、彼に一日の長があつたといふ方が正しいと思ふ。
 周知の如く、科学的精神と戦闘的性能とは、本質的に別個のものとして考へなくてはならないのである。たゞ、この二つのものを武力の機械化として結びつけるのが、おそらく用兵及び造兵技術の究極の目的であらう。そして、そこには、芸術家の想像に近い、破壊と抵抗の夢があるのである。
 戦闘に於ける科学の優位を今更他国に数へられて、若し、われわれの国民教育の重点をそこにおかうとするやうな傾向が生れたら、私は、その本末転倒を嗤はずにはゐられない。
 もちろん、日本人は甚だ「科学的」でないといふ一般
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