、彼岸の光明に達するには、国民全体の疑心なき協力を必要とすることがよく理解されてゐる筈だからである。
「正しいことをするのに張合のある制度」(安井内相の言葉)はむろん望ましい。それと同時に、真に国を愛し、真に国のためになる人物を徒らに眠らせておかぬ制度が更にこの際われわれとしては望ましいのである。
 今日までにも、政府当局によつてさういふ意図だけは示されたことがある。民間の専門家をいろいろな名目で各種の事業部門に参加させてゐるやうであるけれども、これは概して、一種の諮問機関にすぎず、本来責任を与へられてゐないから、これに時間と労力とを割く限度があり、事を行ふ真の情勢は机上より机上へと薄れ去つて行くのだから、結局、力の入れやうがなく、せいぜい形式的な意見具申に終るのではないかと思ふ。たとへ、さういふ人々から理想的な具体案が提出されたところで、実現の可能性は行政的な範囲に止まり、寧ろ根本に遡つての政治的な企画などゝいふものは、全く問題にされやうがないのである。なぜなら、専門的な立場からの最も重要な課題は、決して事務的処理によつて解決されるものではなく、云はゞ、国策の一つとして今日ならば先づ
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