一言二言三言
岸田國士
誇大妄想狂
幕末の志士は佳し。爾来ニキビ面の低脳児、袖をまくりて天下国家を論ずるの風、一時、奇観を呈せり。釈迦、基督はよし、ダントン、レエニンは佳し。今日、猫も杓子も、社会、人類を憂へて、騒然、喧然。
東洋人、由来、悲憤慷慨の気に富む。
――俺は、どうしてかう意気地がないのか。
――きやつは、実に怪しからん。
――貴様は何といふ恥知らずだ。
佳し、佳し。
希くは、「死すとも」それ以上を言ふ勿れ。
沈黙
沈黙は金……云々といふ格言を、文芸の道に通用せんとする人あり。
筆を折るに若かず。
最も巧みに選ばれたる言葉、これが文芸作品の全部なり。言葉と言葉との間に、若し、何か在りとすれば、そは、何ものにも非ず、たゞ、言葉のイメエヂがもつ広さのみ。
これを沈黙と名づくるは、言葉の命に無関心なる証拠。
言葉のイメエヂがもつ広さ、これは文芸の本質的価値を左右するもの。
含蓄、余韻、暗示的効果などの語、概ね、これを指す。
沈黙は金と断ずる論者、意、果して其処に在りや。
作者と作中の人物
一つの作品を論ずる場
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