一言二言三言
岸田國士

     誇大妄想狂

 幕末の志士は佳し。爾来ニキビ面の低脳児、袖をまくりて天下国家を論ずるの風、一時、奇観を呈せり。釈迦、基督はよし、ダントン、レエニンは佳し。今日、猫も杓子も、社会、人類を憂へて、騒然、喧然。
 東洋人、由来、悲憤慷慨の気に富む。
 ――俺は、どうしてかう意気地がないのか。
 ――きやつは、実に怪しからん。
 ――貴様は何といふ恥知らずだ。
 佳し、佳し。
 希くは、「死すとも」それ以上を言ふ勿れ。

     沈黙

 沈黙は金……云々といふ格言を、文芸の道に通用せんとする人あり。
 筆を折るに若かず。
 最も巧みに選ばれたる言葉、これが文芸作品の全部なり。言葉と言葉との間に、若し、何か在りとすれば、そは、何ものにも非ず、たゞ、言葉のイメエヂがもつ広さのみ。
 これを沈黙と名づくるは、言葉の命に無関心なる証拠。

 言葉のイメエヂがもつ広さ、これは文芸の本質的価値を左右するもの。
 含蓄、余韻、暗示的効果などの語、概ね、これを指す。
 沈黙は金と断ずる論者、意、果して其処に在りや。

     作者と作中の人物

 一つの作品を論ずる場
次へ
全4ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング