かでも余裕があると感じられることが、人々の心を安らかにし、列をつくるといふことがなくなるのであらうが、かういふ点はよく考慮する必要があると思ふ。買物行列も、こんなところのちよつとした加減で、なくなるのではないかと思ふ。即ちある制限されてゐる量の上に、ちよつと余裕を感じさせることが必要なのである。
 ところが、いつも足らない、ものがないと感じるのは、そう感じる人の心のもち方にもよるが、実際にはあるものが、行き渡らないために無いといふ姿で現はれるからで、それには配給機構の不備や輸送力の不足も大きな原因となつてゐるであらう。
 村に山ほど薯があつても、町の八百屋に薯がなければ、町の人にとつては現実に薯はないのである。物がないのではない、動かないのであることを国民が知り、その物が動くといふことについて国民が堅く信頼することができ、その信頼に応へて、着々と物が動くならば、買ひ物に列をつくるといふことも自然になくなるであらう。国民はそれだけの心構へはもつてゐるであらうし、またもたなければならない。
 保証されない不自由は忍びがたいが、保証された不自由は忍べる。配給機構の不備を調整して、国民の忍び得
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