5字下げ]
女中のきぬが、そうつとはひつて来る。医者から、すべてを聞いたらしい。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
きぬ 旦那さま……。
卯一郎 (その声が聞えぬらしく、切《しき》りに藻掻《もが》いてゐる)
きぬ (のぞき込み)旦那さま……。
卯一郎 誰だ……あゝ、お前か……大丈夫だ……。心配するな……。さ……さ……さすつてくれ……胸だ……。(きぬが卯一郎の胸をさすりはじめる)
[#ここから5字下げ]
その時、妻のとま子が帰つて来る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
とま子 (自分の部屋から、この様子をみて)お前、こゝにゐたの。さ、もういゝよ、あたしが代るから……。それより、干物《ほしもの》がどうなつてるかみといで。みんな風で飛んぢまつてるから……。(女中、そつととま子の耳元で何か囁かうとする)いゝよ、いゝよ。わかつてるよ。いゝつたら、なにさ、そんな大仰《おほぎやう》な顔つきをして……旦那さまのことだらう、ちやんと知つてるよ……。(女中、しかたがなしに去る)どら、またはじまつたの。今、すぐね。
前へ
次へ
全44ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング