ちよつと着物を着替へてからね。それくらゐ我慢できるでせう。あたし、何処へ行つたか、あてて御覧なさい。(着物を着替へはじめる)いゝこと……。お土産《みやげ》を買つて来たわよ。それも当てるのよ。途中のお話だけ、先へするわね。今日はタクシイを奮発したの。怒つちやいやよ。素晴しい車だつたわ。定紋つきよ。それが、里の紋なの。丁度……。上り藤よ。その運転手がまた、ちよつと、あんたに似てるのよ。
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卯一郎は、頭をひよこりと上げ、このまゝ、再びあを向けになつてしまふ。
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とま子 変な気がしたわ、あたし……。聴いてる、あんた……? つまんない、こんな話……? ぢや、よすわ。それから、あゝさうだわ。あたし、こまかいお金がなかつたの……。困つちやつて、その運転手に、おつりがあるかつて訊《き》いたのよ。さうしたら、どうでせう……。「百円ぐらゐなら、あるでせう」ですつて……。(着物を着替へ終り、卯一郎のそばへ近寄る)あら、いやなひと、そんな顔して聴いてたの。よう、およしなさいつたら、そんな気味の悪《わる》い眼附……
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