を作りに参ります。
卯一郎 姓名と月日のところは、余白にしといて下さい。また、何時《いつ》か何処かで役に立つでせう。やれ、やれ、これが現代の医学か。人間の命を、さう軽々《かる/″\》しく取扱つて貰ひますまい。君達は、何を知つてるといふんだ。本に書いてあることは、生きものに通用しないんだ。いゝか、わかつたか。この通り、おれは生きてるんだぞ。一人の医者は、大丈夫だと云ひ、もう一人の医者は、駄目だといふ。どつちも、気休めだ。そんなことが、君たちにわかるか。その証拠に、両方とも、おんなじ注射だ。命取りの注射だ。帰つてくれ、帰つてくれ。金は後から払ふ。
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医師二人は、顔を見合せて、何か合図をして、そのまゝ、出て行かうとする。
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卯一郎 ちよつと、先生……津幡先生……その注射を、うんとやつてみたらどうです。効《き》くまでやつてみたら……。
津幡 あゝ、ぢや、やつてみますか。
卯一郎 奇蹟でなく、希望はないですか。
津幡 さあ、希望は、まづ、ありません。あると云つては、※[#「言+墟のつくり」、
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