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この時、また、医師津幡直が、案内なしにはひつて来る。医師二人は、顔を見合せて驚く。
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津幡 いよう。
松原 いよう、失敬……君が診《み》てたのか。
津幡 さういふわけでもないんだが……。
卯一郎 やあ、津幡先生……どうも、恐れ入りました。先ほど、電話をおかけしましたら……。
津幡 えゝ、ちよつと、往診に出かけてたもんですから。……ぢや、僕は、引き上げませう。
松原 いや、君にお委《まか》せしよう。
卯一郎 まあ、まあ、さうおつしやらずに、ひとつ、御相談の上、よろしく……。
松原 僕はもう済んだんだ。まあ、いゝから、プルスをみてみ給へ。
津幡 (卯一郎の脈を取り)ふむ……。こいつは弱つたな。(胸に聴診器をあて)ふむ……これや、いかん……。(急いで鞄をあける)
卯一郎 (恐る恐る、しかも、強ひて微笑を浮べながら)いけませんか。
津幡 手遅れです。お気の毒ですが、もう見込はありません。
卯一郎 (なほも、否定的な微笑を続け)手遅れ? 見込がない……? (甚だ不自然な笑ひ声をたてる)戯
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