について……。
卯一郎 手当と申しますと……。
松原 いろいろありますが、先づ、差当り、心臓を冷やしていたゞきませう。それから、足の方に湯タンポを入れて……。
卯一郎 なるほど、湯タンポぐらゐなら、かまひますまい……。
松原 注射はおいやですか。一本、念のためにやつときたいですな。
卯一郎 念のため……。はあ。念のためと……。まあ、そいつは、見合せていたゞきませう。どうも、わたしのからだに、注射は適せんやうですから……。
松原 そんなことありませんよ。普通の強心剤ですから……。
卯一郎 まあ、手当の方は、ゆつくりで結構です。心配はないと何へば、あとは、自分でどうにかやれるでせう。
松原 しかし……。
卯一郎 しかし、いよいよ、助からんものなら、これや、止むを得ませんが……。
松原 助かるとか助からんとかは、手当をしてから後の問題でせう。
卯一郎 おほきに……。手当をしたために助からなかつたといふ例もありますしな。
松原 そんなことを云つたら、医者の必要はなくなります。
卯一郎 お説は、大体わかりました。
松原 くどいやうですが、医者として……。
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