のかな。しつかりしろ。あ、医者が来た。お前はゐなくつていゝ。
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なるほど、医師松原延蔵が女中に案内されてはひつて来る。
[#ここで字下げ終わり]
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卯一郎 いつぞやは……。
松原 やはり、いけませんか。
卯一郎 今度は、心臓らしいです。時々|発作《ほつさ》が来て、ひどく苦しいのですが……。
松原 (脈をみながら)何時《いつ》からですか。
卯一郎 今朝から急に、息がつまるやうで……。
松原 はあ……。(聴診器を取り出し、胸にあてる)
卯一郎 大体のところは自分にもわかるんですが……。
松原 ちよつと……。
卯一郎 一応、先生の御見立を伺つた上で……。
松原 黙つて……。
卯一郎 別に、手当の……。(急いで口を噤《つぐ》む)
松原 さうですな。どなたか。お家の方は……。
卯一郎 わたくし、うちのもので……。
松原 いや、奥さんか、どなたか……。
卯一郎 先生、家内《かない》には、なんにもおつしやらないで下さい。危《あぶな》いですか。
松原 なに、決して、そんな御心配はありません。たゞ、手当
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