。どんな容態だつたね、その少し前は……覚えちやゐまいな。よし。よし。好い加減なことを云はれても、却つて困る。(頭を前後左右に動かし)首の附け根が少し痛いのは、別段、関係はないか……。いやに、お静かですな。眠つた真似《まね》をしてますね。
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この時、下から女中が膳を運んで来る。
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女中 お粥もございますが、普通の御飯になさいますか。
卯一郎 おや、何時《いつ》の間《ま》にか云ひつけたな。おい、奥さん、もう普通の御飯でもよからうね。第一、お菜がコンニャクぢやないか。さあ、そこへ置いた。(起き上る)なんかもうちつと、身になりさうなもんはないのか。
女中 奥さまがこれでいゝつておつしやいましたもんですから……。
卯一郎 奥さん、ほんとかい。ちよつとこゝへ来てごらん。なんか忘れてやしないかい。それとも、これから、卵焼でも作るのか。ねえ、奥さん……。
女中 (笑ひながら)奥さまは、さきほどお出かけになりました。
卯一郎 お出かけ? 馬鹿云つちやいかん、そこに寝てるよ。
女中 あら、ほんとに
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