る亭主つていふものは、あつてもなくつてもおんなじわけだと思つてるんだらう。
とま子  おんなじなもんですか。ない方がましだと思つてるわ。
卯一郎  さうか。二万六千円の貯金は別としてね。だが、おれが死んでも、そいつはお前の手にはひらないよ。子供がないからだ。そいつは知らなかつたね。どうだ。法律つていふもんはうまく出来てる。子供を生まない細君は、亭主の財産を相続する権利がないんだよ。遺言でも書いとかない限り、おれの身代はそのまゝ、残らず唯一人の従弟《いとこ》今田茂七の手にころがり込むんだ。お前は絶対に子供を生まんといふ、そんな厄介なものは欲しくないといふ。おれの切《せつ》なる願ひにも拘らず、四年間、頑張り通した。今だから教へてやるが、おれの夫《をつと》としての心遣ひは、さういふところまで見越してゐたんだ。さあ、なんとか返事をしろ。
とま子  あたしを見違へないで頂戴。二万や三万のお金がどうだつていふの。そんなもの、欲しい人にやればいゝわ。あたしはまだ若いのよ。
卯一郎  さあ、二十八で若いかどうか、いろいろ意見もあるだらう。仮に若いとして、それがどうなんだ。四十六のおれと釣合がとれんとで
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